第4回 アトピー性皮膚炎と漢方治療・スキンケア 薬局でのスキンケア その他

アトピー性皮膚炎の病態や漢方治療の考え方など茨城県水戸市で医療機関と薬局が連携して、
   アトピー性皮膚炎の西洋医学と中国医学の結合治療を行い、効果をあげた取り組みを紹介致します。

アトピー性皮膚炎と漢方治療・スキンケア

茨城県水戸市で、医療機関と薬局が連携して、アトピー性皮膚炎の西洋医学と
中国医学の結合治療を行い、効果をあげた取り組みを紹介します。

 

1:アトピー性皮膚炎の病態
   水戸済生会総合病院 皮膚科部長 飯島茂子


アトピー性皮膚炎は、憎悪したり軽快したりしながら慢性に経過する痒みの強い湿疹病変で、アトピー素因を持つ人に多く発症するといわれています。アトピー性皮膚炎の湿疹病変とは、@外的刺激(ほこり、ダニ、食物、洗剤、花粉などのアレルゲン)や内的要因(IgE抗体の産生過剰、乾燥皮膚(ドライスキン)という体質など)に反応する皮膚の炎症性反応で、A痒みを伴う紅斑(皮膚の部分的な赤色の変化、皮膚面より隆起しない)、丘疹(皮膚の小きな(5mm以内)隆起)、小水疱(中に透明な体液のたまった小さな(5mm以内)隆起)、ぴらん(表皮の欠損で、一般に赤くじくじくし、ひりひり感を伴う状態)という急性症状や苔癖化局面(コケのように分厚くなったゴワゴワした皮膚)などの慢性症状が混在した皮膚病変のことです。原因には、上記の内的要因の他に、精神的ストレスなども関与しています。アトピー性皮膚炎患者の皮膚は、乾燥皮膚が基盤こ存在することから、さまざまな外的刺激により容易に炎症が誘発きれ、痒みが生じます。痒みは掻破を誘発し、掻破は炎症を悪化させ、乾燥皮膚に伴うバリアー機能の低下したアトピー皮膚は、刺激物の進入をさらに容易にきせるという悪循環が生まれてしまいます。アトピー性皮膚炎の治療は、すべての患者に対して画一的な治療ではなく、患者個々の悪化因子・生活様式・職種、さらに重傷度などに応じて、対応することが必要です。一般的には、@薬物療法(皮膚の炎症に対してはステロイド外用療法を主とし、痒みに対しては、杭ヒスタミン薬、抗アレルギー薬を補助的に用いる)、A(悪化因子(外的刺激、ストレスなど)の除去、Bスキンケア〔炎症のない乾燥しているだけの皮膚にも保湿剤の外用)、C生活指導をしていくことが治療の基本です。しかし、多くの患者の中には、西洋医学的な薬物療法のみでは治療が困難な難治例に遭遇することもあります。こうした例に対して、薬局・薬剤師との連携により中国医学との結合治療を試み、漢方治療・スキンケアが効果的であった例を経験しましたので、漢方治療の考え方を紹介するとともに、自験例を提示・供覧いたします。

 

2:アトピー性皮膚炎の漢方治療の考え方
   フローラ薬局 薬剤師・針灸師・国際中医師 篠原秦友 / フローラ薬局 河和田店 薬局長 篠原久仁子


中国医学(中医学)では、アトピー性皮膚炎の病因を、一人一人異なる外因(体質・ストレスなど)から証を見極め、その人の今の状態にあった漢方治療を考えでいきます。これを「弁証論治」といいます。例えば、皮膚の自覚症状で「風」という証は、突然発症し、あらゆる部位で、痒みがあったり消えたりする症状です。「湿」という証は、水疱、滲出性病変を伴う痒み、「熱」という証は、熟感や紅斑がある痒み、「血虚」という証は、全身的な鱗屑と肥厚を伴う痒みの症状を意味します。「皮膚は、内蔵の鏡」という言葉がありますが、アトピー性皮膚炎の中医学治療は、一人一人の体質の違いと皮膚症状の変化を見極め、弁証して、現在の状態に最も合った漢方薬を選ぼうという考え方です。

 

3:西洋医学と中国医学の結合治療によって効果をあげたアトピー性皮膚炎の症例
  水戸済生会総合病院 皮膚科部長 飯島茂子
   フローラ薬局 薬剤師・針灸師・国際中医師 篠原秦友 / フローラ薬局 河和田店 薬局長 篠原久仁子


西洋医学的治療だけではコントロールが困難であったアトピー性皮膚炎の患者に、漢方薬局による漢方治療・スキンケア指導を試み、良好な結果を待た得た症例を供覧します。この症例は、本院皮膚科と薬局薬剤師との連携による中西医結合治療の第1例です。

患者:S.M.25歳女性.無職 <西洋医学診断名>アトピー性皮膚炎

 

<現病歴>
3歳項より、アトピー性皮膚炎と診断され、近医に通院加療していた。この項は、肘のうら、膝のうらに軽度の病変を認めるのみであったという。
18歳時に短期大学に入学し、京都に一人住まいを姶めた。この時通院した医師より、ステロイドを使わない治療を受けたところ、ステロイド離脱によるリバウンド現象が出現し、皮膚炎が悪化。約1カ月半入院した。その後、単位不足による留年、短大卒業、親族の死などのストレスにより、皮膚炎が悪化した。
25歳時、専門資格を得るための試験勉強をしているときに皮膚炎が悪化した。水戸市に帰省し、近医に通院中であったが、皮膚の症状が思わしくなく、
平成13年6月25日、本院皮膚科に初診し、即日入院した。

 

<入院時皮膚所見>
全身の皮膚は乾燥性で、漫潤の強い紅色調の湿疹性病変で占められていた。痒みが強く、各所に掻破痕が散在していた。耳、乳頭部からは、滲出液も見られた。

<入院時検査結果>
白血球数10.000/ul(好酸球40%)。IgE3.300IU/ml,IgE(MAST):コナヒョウヒダニ・ハウスダスト2・ネコジョウヒ・イヌジョウヒ・オオアワガエリ・ハルガヤ・スギはクラス3、ブタクサはクラス2。

<入院捷の経過>
ステロイド軟膏によるリバウンド現象を経験しているため、ステロイドに対する恐怖感が強く、このまま使い続けて次第にステロイド軟膏が強くなったらどうしよう、強くなったら治るのだろうか、という不安をもっていた。そのため、弱いステロイド外用剤でもごく少量しか外用しようとしなかったため、下記の保湿剤、非ステロイド軟膏、Weakクラスのステロイド含有軟膏による外用療法および内服治療を行った。

<西洋医学的薬物治療>
外用剤
アズノール軟膏(保湿剤、全身)、アンダーム軟膏(非ステロイド軟膏、顔の湿疹部)、グリメサゾン軟膏(Weakクラスのステロイド含有軟膏、顔以外の湿疹部)
内服薬
エバステル錠(10mg)1錠、アタラックスP(25mg)1カプセル/1日1回寝る前。セディール錠 3錠/1日3回毎食後
患者にステロイドに対する強い恐怖心があるために、ステロイド外用剤による急性期のコントロールがうまくできないことから、平成13年7月16、漢方治療・スキンケア指導を薬局に依頼した。

<薬局での中医学的アプローチ>
春先にストレスあり。全身の痒みひどく、夜間悪化する。とくに首、背中が痒い。便秘あり(1週間こ1度)。熱感あり、微熱が続いていた。(舌質 紅、舌苔 黄膩)
@皮疹の種類・・・顔、背中、首に紅斑、滲出液、痂皮、苔癖化局面あり。
A中医学弁証・・・湿熱・熱毒証(赤みがあって、炎症を起こしているタイプ)
B治療法則・・・清熱利湿(熱を冷まして湿気を追い出す)・解毒
C漢方方剤・・・竜胆瀉肝湯、黄連解毒湯、五行草など
D前じ薬・・・リュウタン3g、サンシシ3g、オウゴン3g、タクシャ3g、シャゼンシ3g、モクツウ1.5g、生ジオウ10g、セキシャク3g、シャカンゾウ1g、オウレン1.5g、チンピ2g、ハクセンピ3g.カッセキ6g、ダイオウ3g
Eスキンケア・・・病院で処方された保湿剤を全身に塗って包帯で密封していても、ドライスキンですぐ乾燥し、苔癖化した局面も自立っていた。そこで、時に痔みを訴えていた首と背中には、水(パイウォーター)のスプレーで角質層に水分を与えた後、皮脂の組成に近く低刺激性であるオリーブオイルを保湿剤として塗り、それから病院から処方された外用剤を塗るように指導した。また、下肢は掻き壊したための痕が多数見られた。このことから、同部では皮膚のバリアー機能が著明に障害され、r痒み一掻破」の悪循環が存在すると考えた。そこで患者本人に、医師から処方されたステロイド軟膏を適切に使った方が、角質層のバリアー機能が早く保持できるようになることを説明した。

<その後の経過>
平成13年7月23日(7日後)
除々に皮膚の水分含量が増え、やわらかく、滑らかになってきた。また、グリメサゾン軟膏に対しても納得して適切に使うようになった。しかし、痒みは軽度軽減したものの、体の熱感はまだあり、頭が熟い。便通もあまり良くないとのことで、ダイオウの量を増量し、石膏を加えた。ダイオウは別包調剤とし、便通によって量を調節して服用してもらうこととした。
平成13年8月2日退院
平成13年8月6日(3週間後)
便通は毎日あるようになり、体の熱感・かゆみも軽減した。
平成13年9月12日(約1ヵ月後)
熱感が落ち着いてきて、痂皮、滲出液も少なくなり、熱毒証の皮膚症状から血熱証の症状へと変化してきた。同時に、皮膚が乾燥して鱗屑を伴うようになったため、オリーブオイルを中心とするスキンケアを指導した。スキンケアに対して、より積極的な姿勢がみられた。また、病院より処方されていた顔面へのプロトピック(タクロリムス)軟膏の使用についても相談を受けた。
平成13年12月(約5カ月後)
皮膚の調子が良いので、アルバイトを始めた。
平成14年3月 (約8ヵ月後)
人間関係によるストレスが生じたのでアルバイトを辞めた。皮膚の症状に悪化はみられなかった。
平成14年9月(1年後)
紅斑は消失し、熱感もない状態となった。西洋医学治療・漢方・スキンケアを続け、皮膚は滑らかで、つややかになった。
平成15年4月(1年9ヶ月後)
頚部から屑、前腕に漫潤性紅斑、下肢に紅色丘疹がみられるが、皮膚は十分保湿されていた。仕事が忙しく、漢方薬を煎じる時間がなくなったので、エキス剤を希望した。白虎加入参湯、滋陰降火湯を処方した。
平成15年5月(1年10ヵ月後)
紅斑があるものの、滲出液は見られず、鱗屑を伴う乾燥状態が見られた。湿熱証が改善され、血熱証へと変化していると考えられたため、清熱作用とともに補陰作用(保湿)のあるジオウを含む処方(三物黄きん湯合黄連解毒湯)に変更。
平成15年7月(2年後)
東京から水戸への通院が大変となってきたので、東京の病院に紹介した。

 

4:薬局でのスキンケア
  水戸済生会総合病院 皮膚科部長 飯島茂子
   フローラ薬局 薬剤師・針灸師・国際中医師 篠原秦友 / フローラ薬局 河和田店 薬局長 篠原久仁子


皮膚を清潔にし保湿することで乾燥、痒みを防ぐ
アトピー性皮膚炎患者の皮膚は、乾燥して荒れやすいので、汗や汚れ、ダニなどの刺激物が入りやすく、痒みが生じやすくなります。そのため、スキンケアによって、皮膚を清潔にし、保湿することで、乾燥による痒みを防ぎ、刺激から保護してくれる効果があります。保湿剤には基剤の種類により、

・油脂性軟膏・・・白色ワセリン、サリチル酸ワセリンなど
・乳剤性軟膏(クリーム)・・・親水軟膏、尿素含有軟膏、ヘパリン類似物質含有軟膏コラ−ゲン含有軟膏、スクワレン含有軟膏、ビタミンA・E含有軟膏、セラミド含有軟膏など
・油製剤・・・オリーブ油、ツバキ油など
・ロ−ション剤
などに分けられます。セラミドは、角質細胞間脂質の1つとして、生体内でつくられる脂肪酸です。スキンケアは外用の基本ですから、急性期・慢性期にかかわらず積極釣に行うとよいでしょう。ただし、使用時期や内容については、主治医の先生の指示を受けて下さい。また、傷のある皮膚では、尿素系の軟膏は刺激を受けることがあります。ごくまれに、こうした保湿成分や非ステロイド糸の軟膏にかぶれる方もいます。現在、化粧品は全成分表示が義務付けられ表示などされています。アトピー性皮膚炎の患者は、敏感な肌と心の持ち主の方が多いので、薬局薬剤師は、ぜひスキンケア商品の化学成分とその患者の皮膚症状、ステロイド外用剤の使用状況をよく見極め、相談にのってあげることが大切で、前述した症例のように精神的なケアにもつながります。スキンケア商品はまずサンプルを試してもらい、皮膚に刺激性がないかを慎重に確かめ、個々の症例に合ったものを安全に選べるようアドバイスすることも必要だと思います。

 

5:最後に
   病院、薬局薬剤師の連携による結合治療も重要  水戸済生会総合病院 皮膚科部長 飯島茂子


自験例は、18歳頃より種々のストレスによって悪化しでいたアトピー性皮膚炎で、本院に初診したときからステロイドに対する強い恐怖感を抱いていた症例です。西洋医学では急性期の炎症の強い症状を治すことは得意ですが、これにはステロイド軟膏が必要不可欠です。本症例のように、弱いステロイド軟膏にも拒絶反応を持っている場合には、治療に長期間を要しますが、漢方治療の好ましい適応と考えられます。自験例では、素直に漢方治療およびスキンケアを受け入れ、まじめに実行していました。今までに蓄積していたいろいろな不安や問題点も、医師ではなく、薬局という極めて中立的な第三者からの意見により、徐々に解決されたことと思います。本症例での退院時の目標は、「仕事に就いて、自立した生活ができること」でした。精神面が解決されたことから、アルバイトを始め、人間関係でのストレスにも屈することがなく、最近では、仕事が忙しくて漢方薬を煎じられない、さらに東京からの通院も大変、と社会的に立派に自立できるようになっているようです。医療者として大変喜ばしいことと感じています。ただ心配なことは、忙しすぎて、スキンケアの基本である「毎日の日課としての保湿」を忘れてしまうことです。最近では病診連携(病院と開業医との連携)という言葉をよく開くようになっていますが、病院と薬局薬剤師との連携による結合治療も重要なのではないか、と痛感しています。



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